軸装の修理工程

宇佐美松鶴堂ではお客様からお預かりした軸装を、以下のような工程で修復致しております。

一 事前調査

A.目による観察
本紙旧修理状況、剥落状況、折損および欠損状況、虫やカビなどの状態を調べます。
表装は、折損状況、裂の欠失、表具の取合せなどを調べます。

B.光学機器による調査
写真撮影、X線写真、赤外線写真、紫外線照射、顕微鏡写真などで調査します。

C.本紙の調査
墨蹟の筆蹟や筆勢、絵の様式、落款、紙質、布質などを調べます。


二 剥落止、解装

本紙絵具の剥落止は、膠水にて施工。定着を待って、本紙、裂、軸木など各部分に順次解体していきます。


三 旧裏打紙の除去および裏打紙の打替え

旧裏打紙は、裏面より、本紙表面をいためないよう極力除去。新たに、肌裏打、増裏打を行います。

肌裏打には新糊と美濃紙を用い、増裏打には古糊と美栖紙を使用。本紙と裂地の厚さを合せ、裏打後の腰の強さを整えます。


四 本紙の補修(補絹・補紙)

絹地の欠損箇所には、同質の絹地に上げ写しで欠失部分を写しとります。手術用メスやハサミを使ってくりぬいた絹地はすき間のないよう欠失部へピッタリと埋め込みます。

紙本の場合は、肌裏打の直前に裏面より同質紙にて繕います。欠失部通りに形どった補修紙は和紙の毛羽を糊代として、丹念に繕っていきます。

五 補彩

補絹や補紙の部分には、付近の地色に合せて補彩します。原則として、描きおこしはしません。


六 折伏せ

古い折れ、亀裂の跡や欠失箇所は、修理後再び折れてくる可能性が強いので、下からの透過光線や横光線で、透かしながら本紙裏面より、折れの生じるおそれのある所に薄美濃紙でカスガイを縦横に入れます。


七 裂地の取合わせ

修理をほぼ終えた本紙に似合う表具裂の取合わせを検討します。担当者の楽しみのひとつですが、この成否が本紙の生命を左右し、また修理の評価にも影響を及ぼしかねません。


八 付廻し

取合せが決まると、本紙同様、裂地にも肌裏打、増裏打を施します。文様の出を考慮しながら割付寸法に従って裁断、本紙の周囲に裂を付け廻していきます。


九 中裏打

およそ表具の形になると、美栖紙と古糊で中裏を入れます。中裏打の紙の厚さや回数は表具の大きさにより違い、掛り具合の良い厚さは経験に基づいてきめます。


十 総裏打

宇陀紙と古糊で、最後の裏打を施します。同時に、上巻絹、上下の軸袋なども取り付けます。


十一 乾燥・保存箱の調製

仮張には、最初は表張り、次いで裏張りをして、十分に乾燥させます。この間に、表具の仕上げ寸法にあわせて保存箱を調製しておきます。今後折れや剥落が更に生じやすく取扱いに注意を要するものには太巻芯も用意します。


十二 仕上げ

軸首、上下軸木、釻などの金具類、紐、風帯を付し、軸装仕立に仕立てあげて、保存箱に収納、保存します。箱の養生の為帙も作製します。


修復完了

以上の工程を経て、軸装は美しく甦ります。


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